人命救助に命を懸ける熱き男たちのドラマをリアルに描き、航空マニアの強い支持を得たレスキューアニメ『よみがえる空-RESCUE WINGS-』。
今年2018年、航空救難団創設60周年を記念して、ついにBD-BOXが発売されます。
11月22日(木)発売の『よみがえる空-RESCUE WINGS- BD-BOX』に映像特典として収録予定の「小松救難隊 最新ドキュメント」。
暑さも続く8月某日、私たち『よみがえる空』取材チーム一行は、ドキュメントを通じて小松救難隊の“今”を広く伝えるべく、石川県小松市に所在する航空自衛隊小松基地へ取材に訪れました。
今回はそんな取材に同行した新人宣伝担当である私、鈴木麗が、初めて触れる“救難”について拙いながらレポートさせていただきます!
石川県にあるJR小松駅からタクシーで約15分。高い柵で囲まれた基地内へ入るため、厳密な受付を済ませ本部へ移動。その堅固なセキュリティに、簡単には入れない場所へ来たのだという実感、同時に、緊張感で身が引き締まる思いがしました。
けれど、廊下で出会う隊員の皆さんが、笑顔で挨拶をしてくれるのです。勝手な思い込みを持っていたことを恥じながらも、自然といつもより明るく挨拶を返している自分に気づかされました。「堅苦しい」「厳しい」「怖いところ」といった、私が持っていたイメージは、小松救難隊庁舎内の談話室に行くまでの間にほぼ全て払拭されることに。基地内はどこも明るく、建物間のスペースには芝生や樹木が植えられ、開放的な気持ちにすらなりました。
また、廊下を歩きながらあたりを見回すと、至るところにカラフルな標語ポスターが掲出されています。このポスター、全て隊員によって制作されたものだというので驚きでした。どれもイラスト・デザインがウィットに富んだものばかりで、堅苦しいイメージを持っていたはずの建物の空気をさらに和らげていたように思います。
▲ 談話室の入り口に貼られていたポスター。男性隊員の名札にまでユーモアが効いている。
最初に撮影予定だったファーストフライトまで少し時間が空いたため、スタッフは談話室で待機することに。日が良く入り明るい談話室の中、テーブルを囲んで談笑していると、なんだか彼らの日常を疑似体験しているかのような気分になってしまうものです。談話室には自衛隊関連の雑誌が置かれており、私も少しだけ読ませてもらったのですが、『隊員御用達のグルメ特集』のような記事も載っていて、自衛隊に関する知識がほとんどなくても軽い気持ちで楽しむことができました。いつもは厳しい訓練を行っている隊員も、休憩するときにはこういう雑誌を読んだりするのだと思うと、勝手ながら親近感のようなものすら覚えてしまうのでした。
この談話室には時折隊員の方も出入りしており、コーヒーを飲んで一服する姿なども見られたのですが、数人に一人の割合で明らかに筋肉量が違う隊員が。
この筋骨隆々の男性達は、通称「メディック」と呼ばれる隊員だそうです。救難活動の際に空中のヘリから機外に出て要救助者を助け出す役割を担っている彼らは、皆、日々筋トレを欠かさないらしく、廊下を歩いているだけで、私でも一目で「メディック」だと判別できてしまうほどでした。
それから、冷蔵庫の真向かいに座っていた私がずっと気になっていたのが、野菜室のドアに貼られている「えりこママよりすいかの差入れです」というメモでした。隊員の誰かの母なのだろうか、と思っていたところ、実は「ゑりこ」という小松市内にあるスナックのママさんからの差入れだとのこと。「ゑりこ」のママは、救難隊員達の第二の母のような存在なのだそうです。課業終了後に訪れる隊員達の相談相手になり、厳しい訓練を受ける隊員の心の支えにもなっているとのことでした。
残念ながら今回の取材で「ゑりこ」を訪れることはできなかったものの、小松救難隊を影から支える救難隊員の“母”なる方に、いつかお会いしてみたいものです。
▲ 談話室内は、設定に描かれているのとほぼ同じ光景が広がっている。
このほかの設定資料も多数、ギャラリーページに掲載しているので、そちらも是非ご覧になってほしい。
そうこうしているうちに、その日最初の飛行訓練の時間となりました。朝9時という時間にも関わらずその日は日差しが非常に強かったため、持参した帽子を何気なく被ってエプロン地区に向かおうとしたところ、取材スタッフから止められてしまいました。
少しでも風で飛んでしまう危険性があるものは、エプロン地区内で飛ばされた際にエンジンに吸い込まれるなど事故の原因となってしまうため、絶対に持ち込んではならないという決まりがあるそうです。確かに同行したスタッフは皆、基地での撮影に慣れているだけあって、あご紐のついた帽子を着用していました。知らずに気軽に立ち入ろうとした自分の浅慮を改めて恥じ入るのでした。
思えば送迎の車で救難隊庁舎へ向かう際にも、途中で隊員の一人が一度下車して何やらタイヤを確かめていました。聞いた話によると、エプロン地区へ立ち入る際にはタイヤの溝に小石などが挟まっていないかを必ず確認するのだそうです。改めてその安全管理の徹底ぶりに敬意の念を抱きながら、ポケットに落ちる可能性のあるものが入っていないか再三確認して、エプロン地区へ移動しました。
コンクリート張りの地面、当然周りに遮蔽物もない灼熱の日差しの中、広大な土地の至るところに、当たり前ながら見たこともない数多の機体。向かい側には小松空港が隣接しており、滑走路から時折旅客機が飛び立つのが、そう遠くない距離で見えます。想像していた以上のスケールの大きさに、私は得もいわれぬ高揚感を覚えました。
待機している救難ヘリ・UH-60JⅡと救難捜索機・U-125Aを横目に徒歩でエプロン内を移動。隊員達が整備や点検を行う中、抑えきれぬ好奇心で機体をまじまじと眺めながら、目的のUH-60JⅡのそばへ到着しました。風が強いことから目の保護のために手渡された防塵ゴーグルを装着して、離陸するのを待ちます。
ローターが徐々に回りだし、上がっていく回転速度。しだいに機体が浮き上がり、機尾が上がります。あれだけ重量のありそうな物体が空中に浮かび上がっていく光景は、映像では何度か見たことはあっても、これだけの距離で目の当たりにするとやはり興奮してしまうものでした。
そうして水平から40度ほどまで機尾を上げた機体は、そのままの前傾姿勢で飛び立っていきます。これがとにかくかっこいいのです。なぜ前傾姿勢なのかはよく知らないまま離陸風景を目にしたのですが、理由はわからずとも思わず見惚れてしまうような美しさを感じてしまうのでした。
ちなみにヘリが前傾で離陸する理由は、進行方向にローターを前傾させることによって前進力を得るためだそうです。ただ、今回の飛行については撮影が入っているということもあり、通常よりもパフォーマンスに近い飛び方とのことでした。同行したメンバーも、「こんなにきれいな離陸はなかなか目に出来ない」と絶賛。貴重なシーンを快く見せてくださった救難隊の皆様、ありがとうございました。
こうして離陸風景をかなりの至近距離で見せていただいたのですが、身を以て感じることができたのは、「風、強っ!」ということでした。もちろん至近距離とはいっても、誘導をしている隊員からは数メートル離れたところにいたのですが、それにもかかわらず、気を引き締めて立っていなければ飛ばされてしまうのでは、というほどの強風でした。
『よみがえる空』では女性隊員がUH-60J(※)の誘導を行っているシーンが何度か描かれるのですが、何気なく見ていたその場面に映る彼女の足腰の強健さをこうして実感することとなるとは思ってもみませんでした。
(※:TVアニメ放送当時は小松救難隊には救難救助機としてUH-60Jが配備されていたが、現在は最新型のUH-60JⅡにリプレースされている)
▲ 実際の誘導風景。
▲ 作中で描かれる誘導風景。
荘厳と飛び立ったUH-60JⅡは晴天の青空を颯爽と移動して、少し背丈の高い草原を円形に撫で付けながら登場。これまで映画やアニメでしか見たことのなかったこの風には、「ダウンウォッシュ」という名前があるそうです。実際問題ただの風であることに変わりはないのかもしれませんが、まさか自分が「ダウンウォッシュ」を全身に浴びることができる日が来るとは、という何とも言えない感動がありました。
そうこうしているうちに機体のドアが開き、ワイヤーが地面へおろされました。ワイヤーに吊り下げられて降りてくるのは、筋骨隆々の男性。なるほど、これがさっき見た「メディック」か、と納得しながらも、何より驚いたのはその後です。地上○○メートルの高さのロープに、なんと片腕の力だけでぶら下がっている?!
あとから聞いたところ、着用したハーネスにホイストフックを繋いでいるので、けして腕の力でぶら下がっているというわけではないそうでした。安全面から考えれば当然のことなのでしょうが……。
とはいうものの、メディックの隊員は普段の筋トレで「両腕でやると負荷が足りないから」という理由で、片腕のみで懸垂をするらしいので、彼らならハーネスがない状態でも問題なく任務を遂行できてしまうのでしょう。
UH-60JⅡが要救助者役のダミー人形に近づき、隊員がワイヤーと共に地上へ降り立ちます。地上で待機していた隊員と合流。そこからの手際が、恐ろしいほどに迅速なのです。ほんの一瞬、私が足元の草むらを跳ね回るバッタに気を取られている隙に、担架はすでに地上から数メートルの高さまで吊り上げられていました。地上でもう一人の隊員が、担架が回転してしまわないようもう一本のロープを引っ張り、気づけばもう担架は救難機内に格納されていました。
地上から見上げる救難機の様子は、まさに雄姿と呼ぶにふさわしいものでした。
もしも今後、何かの折に自分が救助を求める立場になってしまったとして、上空にあの紺色の機影が現れ、孤独と絶望に打ちのめされる自分のもとに差しのべられるワイヤーは、どれほど頼もしいことでしょうか。
私は経験したこともない遭難に思いを馳せ、吹きすさぶダウンウォッシュの中、その勇壮さに思わず武者震いしてしまうのでした。
その後、整備風景も見学・取材させていただくことに。
整備員が整備作業を行う際に、防音用のイヤーマフを耳からずらして頭につけていたのだが、それがなんだか動物の耳のように見えてかわいいのです。
かわいい、などという至極無礼な感想を述べてしまいましたが、救難活動のかなめとなる機体の整備・点検をする彼らの姿は、真剣そのものでした。熟練の手際で複雑な機体を迅速にメンテナンスする姿は、まさに職人。このスピード感に救難の成功がかかっているのだと思うと、部外者ながら身が引き締まる思いがします。
▲ 長い棒のついた鏡を使って、目の届かないプロペラの上面まで入念に点検する。これを見たとき、歯医者でよく見かける口内鏡を真っ先に連想した。
ちなみに、近くにある空港から旅客機が離陸する姿も見ることができたのですが、機体の種類によって離陸時のエンジン音(風を切る音)が全く異なって聞こえるのが印象的でした。個人的には、戦闘機が離陸する際の風を切り裂くような尖った音と、地響きのように鼓膜を震わす低音が一番好みでした。
今回の取材では、基地内の風景や実際の機体・訓練風景を撮影させてもらうのみでなく、実際に救難活動に携わっている隊員6名にもインタビューを敢行しました。インタビューでは、彼らが救難隊員を志したきっかけやこれまで救難の現場で向き合ってきた経験、実際の任務内容や機材の運用方法など専門的な内容に至るまで、本当に多岐に渡るお話を伺うことができました。
インタビューを受けていただいた方のみでなく、撮影を行うにあたって様々な方と話をしてみて感じたのは、どの隊員も皆、非常に温厚で人間味溢れる方ばかりだということです。そしてもう一つ共通するのは、それぞれの仕事に対して、並々ならぬ熱意を持っているという点でした。救難の現場とアニメの現場では仕事の内容はまるで違えども、新人の私にとって、“仕事”というものに対する向き合い方という意味で大変刺激になるものでした。
また、インタビューを行うにあたって隊長室や執務室など色々な部屋にお邪魔したのですが、どの部屋にも航空機の模型が丁寧に並べられており、任務のみでなく、機体に対する愛情を感じられたのが印象的でした。
このインタビューの内容については、11月22日(木)発売の『よみがえる空-RESCUE WINGS- BD-BOX』に映像特典として収録予定の「小松救難隊 最新ドキュメント」、および11月21日発売の雑誌『航空ファン』にも一部掲載予定なので、是非そちらでご覧ください。
また「小松救難隊 最新ドキュメント」は、10月よりバンダイチャンネルほか配信サイトにてダイジェスト版を配信予定です。少しでも航空救難団に興味を持ってくださった方は、まずそちらもご覧いただければ幸いです。
最後のインタビューを終えた頃には時刻は19時を回り、我々一行は日没時間を過ぎてすっかり暗くなったエプロン地区へ再び移動。ナイトフライトと呼ばれる、夜間の飛行訓練の着陸風景を撮影するためでした。
隣接する小松空港の誘導灯が色とりどりに暗闇に明かりをともしており、さながらイルミネーションのようで少しロマンチックにも感じます。BGMは我々のすぐ横でアイドリングをしている戦闘機から発されるエンジンの轟音です。だが、その臓腑まで響くような低音にも、なんだか心地よさすら抱くようになっていました。
そんな感傷に浸っているうちに、ナイトフライトを終えたU-125Aが我々の目の前にランディング。轟音の中、両翼に光をともしたU-125Aはこちらに向かって徐々にスピードを落としていきます。一日を通して行った撮影の終わりを飾るにふさわしいその光景に、その日何度目か分からない強い感動を覚えるのでした。
今回の取材で撮影した離陸・着陸シーンの映像は、ドキュメントに一部収録予定です。拙い言葉では伝えきれない壮観を、一度是非映像で目にしてほしいと切に思います。
▲ ランディングするU-125A。
普段の生活で、「救難隊」という存在を身近に感じられる機会はなかなかないでしょう。かくいう私も、今回仕事で『よみがえる空』という作品に携わることになるまで、「救難隊」のことはニュースでたまに見かける程度の存在としてしか認識していませんでした。
機体の仕組みだとか救難活動の子細なフローだとか、そういった詳しい知識は私にはまだありません。ですが今回の取材で、救難に携わる人々と言葉を交わし、訓練風景を目の当たりにしたことで、救難活動、はたまた救難に携わる救難隊員という存在に対して強い興味が芽生えたのは確かです。
そういう意味で、決して美しいドラマばかりではない救難活動の現実や、救難に携わる人々の心情変化までリアルに描いた『よみがえる空』は、「救難」の世界を知るにふさわしい作品だと思います。
作品では救難の様子だけではなく、初めは望まぬ配属であったいち救難パイロットである主人公が、「救難」や周りの人々に携わっていく中で徐々に“仕事”に対して正面から向き合っていく過程も克明に描かれています。そういう意味でも、救難という“仕事”に全霊を捧げる隊員達から強い感銘を受けた私からも、“仕事”をするすべての人にお勧めしたいと思っています。
最後に、改めての告知となりますが、今回撮影および取材を敢行した「小松救難隊 最新ドキュメント」は、11月22日(木)発売の『よみがえる空-RESCUE WINGS- BD-BOX』に映像特典として収録予定です。作品をご覧になったことがある方も、一度ドキュメントで実際の救難に触れたうえで改めて見直すことで、新たな楽しみ方を発見していただけるのではないでしょうか。
また、9月14日(金)からはバンダイチャンネルほか配信サイトにて『よみがえる空』第1話~第12話の配信が開始します。10月からは同サイトにて、本ドキュメントのダイジェスト版の配信も予定しています。
今回のレポートで紹介したのは、あくまで取材の一部にすぎません。皆様には是非その目で、日本のレスキューを支える小松救難隊の日々の訓練風景を確かめていただきたいのです。そして、作品をまだ見たことがないすべての人に、『よみがえる空』という作品を味わってもらえれば幸いです。