レスキューウイングス小説版について
小川先生よりコメントが届いています!
以前に民間ヘリコプターの話を書いたことがあるという理由で、今回、レスキューウイングスの話を書かせていただくことになりました。
レスキューといえばヘリです。しかし、救難隊の取材をしてレスキューとはいかなる行為であるかを考えたとき、私の中で主人公はパイロットではなく救難員になっていました。救難員(メディック)は航空自衛隊きってのマッチョとして知られており、私が現に会った方々も、ものごっつい体をしたナイスガイたちでした。機械力の及ばぬ厳しい環境で、みずからの力だけをたのみにして遭難者を救い出すのが彼らです。
階級は高くありません。しかし救助される人間が一番最初に見るのは、彼らの顔なのです。
自国民を弾圧していない限り、他国の軍隊は――少なくとも「軍人」は――市民から一定の敬意を受ける職業であるものですが、日本の自衛隊は敬遠されています。
日本には憲法九条という美しい原則があり、自衛隊はそれに従って「正義の味方」であろうと涙ぐましい努力をしていますが、まともな人間なら誰でもわかっているように、この世に完璧な正義など存在しません。だから自衛隊も正義の味方にはなれません。普通の人間の組織として黙々と働いています。ただ看板ばかりが専守防衛という生真面目な文句で飾られているために、建前と現実とのギャップが大きくなり、うさんくささが増して、市民に敬遠されている。
そんな自衛隊の中で救難隊は、建前通りの行動を取ることができる、数少ない幸運な部隊のひとつだ、というのが私の解釈です。人命救助という行いは無条件で尊く、非難を寄せ付けない。
しかしそれでも、人間がそれを命じ、人間がそれを行い、人間がそれに助けられる以上は、美談で済まない波乱が起こるだろうと考えました。
決して善意ばかりではない周囲の環境の中で、単純明快を絵に書いたような救難員たちが、どうやって信念を貫くか――それ以前に、なにを信念とするか。
私が今回追ったのはそれです。
そして一方では、ええノリまくりでしたよ、メカも組織も。
採算関係なしで二十四時間待機して命令一下でブッ飛んでいくヘリとジェット! 三千メートルの高山岳ミッションから、アンダーウォーターまでこなせるオールラウンダーな精鋭と、ゴムボートから暗視鏡までほとんどなんでもありの装備品の数々。そして増強と称して日本中の基地から呼び寄せられる応援部隊!
これ全部使っていいんですよ。実に楽しかった。
はい、すでに書きあがって、校正中です。出版予定は一月末。
お楽しみに。
●小川一水(おがわ・いっすい)プロフィール
1975年生。愛知県在住。1993年、『リトルスター』で第3回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞佳作入選しデビュー。SF、ライトノベルを中心に執筆活動を行っている。綿密な取材によって繰り広げられる作品は読者のみならず作家のあいだでも評価が高い。宇宙作家クラブ会員。「第六大陸」(早川文庫JA)で、第35回星雲賞日本長編部門を受賞。「老ヴォールの惑星」(早川文庫JA)は選考中の第26回SF大賞候補作に選定されている。代表作「導きの星」(ハルキヌーヴェルSFシリーズ)、「復活の地」(早川文庫JA)など。最近刊に「疾走!
千マイル急行」(朝日ソノラマ文庫)がある。
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