航空自衛隊と救難隊のことを知ってほしかった
監督にも脚本家にもそれぞれやりたいことがあると思いますが、私としては「こういう仕事をしている人たちがいるということを知ってほしい」というのが第一ですね。自衛隊については、現在も「日本に必要か」ということで議論の的になっていますし、議論自体はあって然るべきだとは思っていますが、私としては、たとえ自衛隊の存続に反対するにしても、その実態を知ってから議論をしてほしいとずっと思っているんです。そのきっかけになれば、と。
1994年、私は千歳基地を題材にした作品の事前準備のために千歳救難隊にロケハンに行ったのですが、そこから帰った直後、千歳救難隊のUH-60J救難ヘリコプターが遊楽部(ユーラップ)岳に墜落して、乗員5人が全員亡くなるという事故がありました。そしてあるニュースキャスターがこの事故を読み上げるときに「自衛隊は一体何をやっているのか」と吐き捨てるように言ったそうです。
実はこの時、奥尻島で発生した急患を直ちにヘリで搬送する必要があったにもかかわらず、悪天候のため道の防災ヘリも警察のヘリも消防のヘリも陸自のヘリも飛べなかった。そこで最後に航空自衛隊の救難隊に災害派遣が下令されたのです。
航空自衛隊の救難隊は他の組織に比べて機材や人員の能力が非常に高いため、他の組織では対処できないときに要請がかかる“最後の砦”みたいな部隊です。そして彼らは、自分たちが飛ばないと患者は死ぬしかないことがわかっていたからこそ、危険な天候にもかかわらず飛んだ。それなのに「自衛隊が事故を起こした」というだけで非難され、事実が伝わらないことに私は憤りを感じました。このようなことは阪神淡路大震災の時も含め、枚挙に暇がありません。
自衛隊のことをよくわかっていない人々からの一方的な非難にも、彼らは反論もせず黙々と自分たちのやるべきことをやっている。これがあまりにストイックすぎるので、どうにかしたいという個人的感情からこのアニメの企画が生まれたところもあります。ですが、やはり人を救う職業は物語になりますし、それと私が惚れた、彼らの人間的な姿を描きたかったというのが一番大きいですね。
魅力的な男たちの生き様が描かれた作品
そうはいっても、隊員がただ人助けをしているだけではストーリーにはなりにくいので、今回主人公をひとり置いて、その成長を描こうとしています。主人公は戦闘機パイロットを志望していたものの、救難隊のヘリパイロットという望んでいなかった職場に回されることになりました。そして彼は「だったら辞める」と言い出す根性もないままその職場に行ってみたのですが、実はその世界はそんな半端な気持ちでは通用しない、自分が仕事に失敗すれば人が死ぬという真剣勝負の世界だった。極限の職場です。
そんな職場の仲間と接し、彼は失敗したり傷ついたりしながら、少しずつ心が成長してゆく。その過程を等身大の人間として描けたら親しみをもってもらえるのではと考えています。
目の前にある仕事をきっちりこなさないと次はない、自分と仕事の距離を詰めていかないと、本当に自分のできることは見つからない。そういう“自分と仕事の間のスタンスをどうとっていくか”という普遍的なテーマを受け取ってもらえると嬉しいですね。
最近、生き方に影響を受けたり感銘を受けたりできるようなアニメというものが少なくなっている気がするのですが、このアニメには魅力的な男たちの生き様が描かれているので、きっと何か感じていただけるものがある、面白い作品になると思います。
杉山 潔
(バンダイビジュアル・プロデューサー)
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