今回は救難員(メディック)について解説する。救難ヘリに乗り込んで現場に駆けつけ、現場で要救助者をヘリに収容するのが救難員の役目である。こう書くと「ヘリをちょっと下りて人を連れてくるだけ」みたいに思えるがとんでもないことだ。
例えば救難員は嵐の海に飛び込み、溺れている要救助者を捕まえなければならない。しかもその海は、難破船の残骸や流出した重油のため非常に危険になっていることも多い。
またある時はヘリからロープで雪山に降下し、要救助者を見つけて担ぎ上げなければならない。ところがその直後天候が急変して、ヘリが救難員たちを回収することが不可能になる可能性もある。そうなったら救難員は、天候が回復するまでその場でビバークするか、要救助者を背負って下山するかといったことを行なわなければならない。
このように、非常に過酷な状況下で自分自身と要救助者を救うため、救難員には超人的な身体能力が求められる。航空自衛隊に入隊しさえすれば、どんな職種であっても救難員の選抜試験を受けることは可能だが、救難員候補者選抜試験は25歳以下でないと受けられず、募集回数も年1回と少ない。そのため、試験にチャレンジできる回数は多くて3回程度と言われている。
しかも試験の倍率は少なくても5倍、一回の募集定員は4〜5名程度と、極めて狭き門になっている。そのため、本当の強者でないと救難員になることは許されないのだ。
救難員要員候補者選抜試験では、書類選考、筆記試験、体力検定、面接が行なわれる。筆記試験はそれほど難しい内容ではないが、体力検定は非常に厳しく、基準は以下のようになっている。
表1 救難員要員候補者選抜試験基準 |
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種目 |
選考基準 |
体力測定 |
握力 |
左右50kg以上 |
懸垂 |
12回以上 |
50m走 |
7.3秒以内 |
1,500m走 |
5分40秒以内 |
かがみ跳躍 |
45回以上 |
腕立て伏せ |
45回以上 |
起き上がり(腹筋 2分以内) |
45回以上 |
300m走(60m 2往復半) |
62秒以内 |
背筋力 |
110kg以上 |
重物搬送(30kg) |
素養確認 |
泳力測定 |
クロール 100m |
2分以内 |
平泳ぎ 100m |
2分20秒以内 |
自由形 500m |
12分以内 |
横潜水 |
25m以上 |
呼吸停止 水深4m |
30秒以上 |
縦潜水(水深3m 3回連続) |
素養確認 |
浮き身 5分 |
素養確認 |
立ち泳ぎ 5分 |
素養確認 |
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この試験をパスしても、1年以上にわたる教育と訓練が待っている。もっと過酷な身体訓練、航空機基礎知識、登山知識、保命技術、救出技術の教育と訓練、さらには自衛隊病院での応急手当訓練、そして陸上自衛隊第一空挺団での落下傘(パラシュート)降下訓練までもが含まれている。これらの課程をすべてこなし、海上総合実習、夏期山岳総合実習、冬期山岳総合実習をクリアすると、ついに救難員として各救難隊に配属されることになる。
だがパイロットなどと同様に、この直後はやはり直ちに救難任務に出動することはできない。OR(Operation Readiness)の資格を取るまでさまざまな訓練を続けねばならないし、ORの資格を取ったとしても、陸上自衛隊空挺レンジャー課程、海上自衛隊海曹士専修科開式スクーバー(スキューバ)課程などを経験し、常に体力の維持と、新たな救出技術の習得を行なわなければならないのである。
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